役職定年の実測ノート

役職定年で何が起きるかを、実測の数字と当事者の一次情報で。

役職定年でやる気が出ないのは、あなたの弱さではない。原因を3つに分解して、立て直しの順番を決める

年収が1〜3割減ったと答えた人は53%。やる気が落ちるのは、性格ではなく制度の設計だった

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「役職定年 モチベーション」で検索すると、上位に出てくるのは「シニア社員のモチベーションが下がる理由と対策」——つまり会社側が社員をどう扱うかの記事です。

この記事は、下がった本人のために書きます。

私自身、3年前に課長職の役職定年を迎えた当事者です。 幸い給料は変わりませんでした(この経緯は記事01に書きました)が、肩書が外れ、上司は年下になりました。 この記事は、その立場から書いています。

やる気が出ないのは「正常な反応」

先に結論を書きます。役職定年でモチベーションが落ちるのは、性格や根性の問題ではありません。 一度に3つのものを失う設計になっているからです。

失うもの 具体的には
地位 肩書、決裁権、会議での発言力
報酬 役職手当。年収の1〜3割(会社による。記事01で試算方法)
役割 「自分は何のためにここにいるのか」の答え

心理学の自己決定理論(デシとライアン)では、人の内発的な動機づけは「自律性・有能感・関係性」の3つに支えられると説明されます。 役職定年は、決裁権を失い(自律性)、評価される場を失い(有能感)、職場での立ち位置が変わる(関係性) ——3つを同時に削る出来事です。 落ちて当然です。

報酬の面でも、ダイヤモンド編集部の調査(2022年)では役職定年経験者の53%が「年収1〜3割減」、9割以上が年収ダウンを経験しています(減収の実額と手取りの時差は記事01で詳しく書きました)。

下がったときに、やってはいけないこと3つ

  1. 感情のまま転職サイトに登録して応募し始める。 50代の転職は準備で決まります(記事03で詳述)。 棚卸しの前に動くと、断られ続けて余計に折れます。
  2. 「あと数年の我慢」と数え始める。 60歳まで5年、65歳まで10年。 我慢でもたせるには長すぎる時間です。
  3. 元部下の仕事に口を出す。 役割を失った不安の埋め合わせを職場でやると、居場所がさらに狭くなります。

立て直しの順番——「役割」から埋める

3つ失ったものを全部いっぺんに取り戻すことはできません。順番があります。

最初に埋めるのは役割です。 地位は会社が決めるもので、報酬も短期では動かせません。 役割だけは自分で定義し直せます。

やることは1つ。キャリアの棚卸しです。

  • 30年分の仕事を書き出す(プロジェクト、修羅場、教えたこと、直した仕組み)
  • 「会社の中でしか通用しないもの」と「外でも通用するもの」に分ける
  • 外でも通用するものに、名前を付ける

実例として、私自身の棚卸しを少しだけ。私は物流関連の仕事が長く、メインは配車です。 ここだけ切り出すと「うちの会社の配車に詳しい人」で終わりそうでした。 ところが書き出してみると、配車で現場を知っていたからこそ、営業力を買われてからの新規センターの立ち上げや、主要荷主への提案営業がうまく回ったことに気づきます。開拓した新規荷主は200件以上。

つまり私の「外でも通用するもの」は、配車でも営業でもなく、現場を知っている人間の提案営業でした。 名前を付けるとは、こういうことです。 社名と肩書を外しても残るものに、自分で名前を付ける。 これが棚卸しのゴールです。

棚卸しを一人でやると、だいたい途中で止まる

正直に書くと、この作業は一人では完走しにくいです。 自分の強みは自分には「当たり前」に見えるので、書き出しても価値に気づけません。

方法は3つあります。

  1. 一人でやる:無料。ただし上記の理由で精度が出にくい
  2. 人に聞いてもらう:家族・同僚。ただし利害と遠慮が混ざる
  3. キャリアの専門家を使う:国家資格キャリアコンサルタントなど

3の選択肢には、実は「使う」だけでなく「自分が資格を取る」という変化球があります。

意外に思われるかもしれませんが、キャリアコンサルタント(国家資格)は50代が最多派閥です。 キャリアコンサルティング協議会の調査(2022年・第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査)では、活動中のキャリアコンサルタントの年齢構成は50代が41.4%で最も多く、60代25.7%、40代21.9%と続きます。 40代以上で約9割。 この資格の世界では、50代は遅れてきた人ではなく中心層です。

管理職として部下のキャリアに向き合ってきた経験は、この領域ではそのまま武器になります。 自分の棚卸しと資格の勉強が同時に進むのも、この選択肢の実利です。

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まとめ

  • 役職定年でやる気が落ちるのは、地位・報酬・役割を同時に失う設計だから。正常な反応
  • 感情のまま転職に走らない。我慢で数えない。職場で埋め合わせない
  • 立て直しは「役割」から。手段はキャリアの棚卸し
  • 一人で完走しにくい作業なので、人か資格を使う選択肢を持つ

収入の減り方と手取りの時差については記事01を。役職定年で収入と仕事はどう変わるか 「では転職はどうなのか」は次の記事で数字から見ます。50代の転職が「厳しい」のはどこまで本当か 決まっていないことが多いほど、気持ちは落ち着きません。会社に確かめれば分かることは、先に確かめておく。定年前に会社へ聞くこと7つ


この記事で使った数字の出典

  • ダイヤモンド編集部 独自調査(週刊ダイヤモンド 2022年10月8日・15日合併号。年収1〜3割減が53%・9割以上が年収減)
  • キャリアコンサルティング協議会「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」(2022年。活動中の年齢構成:50代41.4%・60代25.7%・40代21.9%)
  • 自己決定理論(E. Deci & R. Ryan):内発的動機づけを支える「自律性・有能感・関係性」の枠組み