退職後の健康保険は任意継続と国民健康保険のどっちが得か。その前に、保険証の「健康保険組合」を確かめてください

「任意継続と国民健康保険、どっちが得か」
退職後の健康保険を調べると、この比較記事が山ほど出てきます。私も読みました。そして、そのほとんどに同じ数字が書いてありました。
任意継続の保険料の上限は、標準報酬月額32万円
ところが、保険証を見て分かりました。この数字は、私には当てはまりません。
私の保険証には「健康保険組合」と書いてあったからです。
この記事は、退職後の健康保険の3択を、国の資料から確かめた記録です。比較の前に見るべきものが1つある、という話が中心になります。
再雇用が決まっていても、健康保険は、いつか自分で選ぶことになります
私は2027年2月に60歳になります。再雇用は決まっています。だからこの3択は、当分は使いません。
それでも今のうちに調べたのは、期限が20日しかないからです。
そのときになって調べ始めると、間に合いません。会社を辞めた翌日から数えて20日。引き継ぎと荷物の整理をしている間に過ぎる長さです。
なお、健康保険が会社の保険のまま続くのか、それとも切り替わるのかは、会社に聞かないと分かりません。これは定年前に会社へ聞くこと7つのほうに入れてあります。保険証が組合か協会けんぽかも、辞める前に会社側で確かめられることです。
選べるのは3つ。任意継続・国民健康保険・家族の扶養
会社を辞めたあと、健康保険は次の3つから選びます。
- 任意継続 — 辞めた会社の健康保険に、そのまま入り続ける
- 国民健康保険 — 住んでいる市町村の保険に入る
- 家族の扶養に入る — 働いている家族の健康保険に、被扶養者として入る
ここでは、まだ損得を言いません。先に期限の話をします。理由は次の節のとおりです。
期限が違います。任意継続は20日、国民健康保険は14日
この2つは、日数が違います。私はここをいちばん間違えやすいと思っています。
任意継続
退職日の翌日から20日以内に手続すること (協会けんぽ「任意継続被保険者となるための要件」)
もう1つ、条件があります。
退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あること (同上)
国民健康保険
国民健康保険の被保険者となったとき、脱退するときなどは、14日以内に (厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」)
届出先は、お住まいの市町村(特別区を含む)の国民健康保険の窓口です。
20日と14日。どちらも短いうえに、数字が近くて紛らわしい。「だいたい2週間くらい」と覚えると、任意継続のほうを取り違えます。
「上限は標準報酬月額32万円」は、協会けんぽの人の数字です
ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。
任意継続の保険料は、「標準報酬月額」に保険料率をかけて決まります。その標準報酬月額の決め方が、法律に書いてあります。
任意継続被保険者の標準報酬月額については、(中略)次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額をもって、その者の標準報酬月額とする。 一 当該任意継続被保険者が被保険者の資格を喪失したときの標準報酬月額 二 前年(中略)の九月三十日における当該任意継続被保険者の属する保険者が管掌する全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額(後略) (健康保険法 第47条第1項)
つまり、「辞めたときの自分の額」と「保険者の平均額」の、低いほうです。
そして協会けんぽは、その平均額を毎年公表しています。
令和7年9月30日時点における全ての協会けんぽの被保険者の標準報酬月額の平均額は318,100円となります (協会けんぽ お知らせ 令和7年12月10日)
これを標準報酬月額の等級に当てはめた結果が、令和8年度の上限32万円です。
注目してほしいのは「全ての協会けんぽの被保険者の」という部分です。
条文にも「当該任意継続被保険者の属する保険者が管掌する全被保険者」と書いてあります。自分が入っている保険者の平均、という意味です。
協会けんぽに入っていない人の平均は、ここには入っていません。
保険証を見たら「健康保険組合」でした。だから私の保険料は、まだ出せません
私の保険証には「健康保険組合」と書いてありました。協会けんぽではありませんでした。
健康保険組合には、さらに別の規定があります。
保険者が健康保険組合である場合においては、前項の規定にかかわらず、同項第一号に掲げる額が同項第二号に掲げる額を超える任意継続被保険者について、規約で定めるところにより、同項第一号に掲げる額(当該健康保険組合が同項第二号に掲げる額を超え同項第一号に掲げる額未満の範囲内においてその規約で定めた額があるときは、当該規約で定めた額(後略))をその者の標準報酬月額とすることができる。 (健康保険法 第47条第2項)
条文は読みにくいので、平たく書きます。
健康保険組合は、規約に書いておけば、「辞めたときの自分の標準報酬月額」をそのまま使うことができます。平均額で頭打ちにしなくてよい、という意味です。組合が決めれば、その中間の額にすることもできます。
つまり、上限で止まらない場合があります。
私が「32万円」を自分の数字として使えないのは、このためです。私の保険料がいくらになるかは、
- 私の組合の規約に何と書いてあるか
- 私の退職時の標準報酬月額はいくらか
- 住んでいる市町村の国民健康保険料はいくらか
この3つが揃わないと出ません。そして私は、まだ1つも揃えていません。
だから、この記事では私の保険料の実額を書きません。推計もしません。協会けんぽの数字を借りてきて自分の数字のように書けば、それは嘘になります。
よく見かける「任意継続の保険料は在職中のおよそ2倍」という説明も、同じ理由でこの記事では使いません。あれは協会けんぽの仕組みを前提にした説明であり、私に当てはまるかどうかは、規約を読むまで分かりません。
【PR】この3つを自分で揃えるのは、正直なところ骨が折れます。組合の規約、自分の標準報酬月額、市町村の国保料。数字を集めたあと、どちらが得かを判断する部分まで含めると、人に見てもらったほうが早いとは思っています。私はまだ使っていません。使ったら、実測としてここに書きます。※リンク先は、保険の見直しを中心にした無料相談です(1〜2時間の面談があります)。
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60歳以上なら、家族の扶養は130万円ではなく180万円です
3択の3つ目、家族の扶養の話です。
「扶養に入れるのは年収130万円まで」という数字が広く知られていますが、定年で辞める人には、別の数字が用意されています。
一般的な場合:130万円未満 60歳以上または障害厚生年金受給者:180万円未満 19歳以上23歳未満(配偶者除く):150万円未満 (協会けんぽ「令和8年4月から被扶養者となるための要件が変わります」)
60歳以上は180万円未満。定年で辞める人は、ほぼ全員がこちら側です。
条件はもう1つあります。
同一世帯の場合:被保険者の年間収入の2分の1未満であること 別世帯の場合:被保険者からの援助額より少ないこと (同上)
「130万円を超えるから無理だ」と早合点して、この選択肢を最初に消してしまわないこと。3択のうち、保険料の負担が要らないのはこれだけです。
任意継続は「2年しばり」ではありません。やめたいと申し出れば抜けられます
任意継続を選ぶかどうかで、もう1つ誤解があります。「入ったら2年間動けない」というものです。
任意継続の期間は2年間です。ただし、資格を失う場合が定められています。
- 被保険者が就職して他の健康保険の被保険者資格を取得したとき
- 保険料を納付期限までに納付しなかったとき
- 被保険者が後期高齢者医療制度の被保険者資格を取得したとき
- 被保険者が亡くなったとき
- 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出たとき (協会けんぽ「任意継続被保険者の資格喪失」)
5番目です。やめたいと申し出れば、資格を失います。「資格喪失申出書」を出すことになります。
「2年動けなくなるのが怖いから国保にする」という理由づけは、成り立ちません。判断材料から外してよい話です。
まだ分かっていないこと
この記事で埋められなかったところを、そのまま書いておきます。
- 私の組合の規約の中身。任意継続の標準報酬月額を、辞めたときの額にしているのか、規約で別の額を定めているのか。読んでいません
- 私の退職時の標準報酬月額。まだ確かめていません
- 住んでいる市町村の国民健康保険料。市町村ごとに違うので、他所の数字は使えません
この3つが埋まったら、実額を出して比べた記事をもう1本書きます。今日の記事は、そこへ行く前の「比べ方を間違えないための1本」です。
あわせて読む
- 「高年齢雇用継続給付は15%」はもう古い — これも「みんなが引用している数字が、自分には当てはまらなかった」話です。今日の記事とまったく同じ型
- 役職定年で収入と仕事はどう変わるか — 健康保険を選ぶ前に、そもそも収入がどう変わるのかを見ておく回
まとめ
- 退職後の健康保険は任意継続・国民健康保険・家族の扶養の3択
- 期限が違う。任意継続は退職日の翌日から20日以内、国民健康保険は14日以内
- 任意継続には「退職日までに継続して2か月以上」の被保険者期間も要る
- よく引用される上限32万円は協会けんぽの平均から出た数字。条文は「自分が属する保険者の平均」と書いている
- 健康保険組合は、規約で「辞めたときの標準報酬月額」を使える(健康保険法47条2項)。上限で止まらない場合がある
- だから比較の前に、保険証が組合か協会けんぽかを見る
- 60歳以上の扶養の収入要件は180万円未満(令和8年4月から)
- 任意継続は2年しばりではない。やめる旨を申し出れば資格を失う
この記事で使った資料
- 協会けんぽ「1.任意継続被保険者となるための要件」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb3160/sb3180/sbb3180/1984-6168/
- 協会けんぽ「5.任意継続被保険者の資格喪失」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb3160/sb3180/sbb3180/1983-6171/
- 協会けんぽ「令和8年度の任意継続被保険者の標準報酬月額の上限額について」(令和7年12月10日) https://www.kyoukaikenpo.or.jp/news/r07_dec/1259.html
- 協会けんぽ「2.令和8年4月から被扶養者となるための要件が変わります」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat710/sb3160/sb3180/sbb3180/1979-6173/
- 厚生労働省 法令等データベース「健康保険法」(第47条) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84024000&dataType=0&pageNo=2
- 厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21539.html
数字と決まりは、すべてこの6つから引きました。個人の解説動画や記事は、論点を探すためだけに使い、根拠にはしていません。